放送第61回『ソニー・クラーク特集』

快楽ジャズ通信」今回の特集は、ピアニスト、ソニー・クラークです。

ゲストはジャズライターの阿部等さんです。

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阿部さんは今回で2回目の出演。前回はハードバップの特集でした。
阿部さんを前にすると、互いの好みがあまりにも一致しているためか、表情が自然に綻んできてしまいます。

そして、交わす言葉も互いの認識や評価が一致しているためか「いいっすよね~」「いやぁ素晴らしい」で通用しちゃうんですよ(笑)。

しかし、そんな会話も、傍から聞いていると「こいつら何話してんだ?」と思われかねないので、なるべくそうならないよう、なるべく具体的な話に持っていこうと気をつけました。

阿部さんも心得たもので、ソニー・クラークの魅力を伝わる言葉で詳しく言葉に落とし込んでくださり、ほんと助かりました。ありがとうございます。

とはいえ、休憩室や音楽がかかっている間の我々の会話は「いいっすよね~」「うーん、これもいい」「あれもいい」「たまらんですよね」のオンパレードでしたが(笑)。

さて、最初にかけたのは、有名な『クール・ストラッティン』より《ブルー・マイナー》。
ラテンリズムに変化するサビの部分が印象的な楽曲ですね。
また、ジャッキー・マクリーンのアルトサックスが素晴らしい。
これぞ、「ジャズ喫茶の音楽」です。
タイトル曲の《クール・ストラッティン》よりも、2曲目の《ブルー・マイナー》のほうが「ジャズ喫茶濃度」が強いんだよね~。

クール・ストラッティン

クール・ストラッティン

  • アーティスト: ソニー・クラーク,アート・ファーマー,ジャッキー・マクリーン,ポール・チェンバース,フィリー・ジョー・ジョーンズ
  • 出版社/メーカー: EMIミュージックジャパン
  • 発売日: 2009/06/10
  • メディア: CD


続いて、ホーン入りをもう1曲。
『リーピン・アンド・ローピン』より《メロディ・フォーC》。
これは、私が大好きな曲、演奏なんです。

どこが好きかというと、のほほーんとしたメロディを、トミー・タレンタイン(tp)や、チャーリー・ラウズ(ts)といったB級ジャズメン(失礼!)が、難しいことを考えず、肩の力を抜いて、楽しそうにのほほ~んと吹いているところが、とても気持ちいいのです。

ラウズのテナーサックスなんて、セロニアス・モンクとやっているときの、どこか肩に力がはいって強張ったような感じがまったくなく、本当にのびのびとプレイしています。

モンクとの共演を聴いて、ラウズのプレイは、ちょっと詰まった感じのあるテナーだなと思っていた人は、《メロディ・フォーC》の伸び伸びとしたラウズのプレイも味わってください。

リーピン・アンド・ローピン+2

リーピン・アンド・ローピン+2

  • アーティスト: ソニー・クラーク,ブッチ・ウォーレン,トミー・タレンタイン,アイク・ケベック,チャーリー・ラウズ,ビリー・ヒギンズ
  • 出版社/メーカー: EMI MUSIC JAPAN(TO)(M)
  • 発売日: 2008/12/26
  • メディア: CD


このなんでもない楽しい演奏を聴くと、その前にかけた《ブルー・マイナー》ですら、やたら凝ったアレンジの曲に聴こえてしまう。

ちなみに、ソニー・クラークのピアノのバッキングがとてもメリハリがあって素晴らしいです。ピアノソロも、もちろん。

ただし、こういう伸びやかな演奏ばかり1日中聴いていると、なんか呆けたアホになりそうな恐怖感はありますが(笑)。ま、それだけ気持ちのいい演奏ということで、まさに「快楽ジャズ通信」の「快楽」という言葉にピッタリの演奏ですね。

「ソニー・クラークなら『クール・ストラッティン』の1枚は持っているよ」という方は多いと思いますが、是非、2枚目は『リーピン・アンド・ローピン』を(笑)。


お次は阿部さん持参のおすすめCD。
『スタンダーズ・ソニー・クラーク』。
これは輸入盤でしか出ていない編集盤ですが

ブルーノートのシングル盤を集めたものです。
ジュークボックスでかけるための3~4分のスタンダード演奏を集めたものです。

その中から阿部さんオススメの《キャント・ウィ・ビー・フレンズ》。

Standards

Standards

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Blue Note
  • 発売日: 1998/02/10
  • メディア: CD


短い時間の中、手際良くまとまった演奏は、まるでザ・スリー・サウンズを聴いているようでしたが、ソロの随所に現れる、勢いを敢えて抑制したかのようなフレージングは、ソニー・クラークならではのテイスト。

勢いよくドバーッといきすぎない「寸止めの快感」をソニー・クラークは心得ているかのようです。

このアルバムは初めて聴きましたが、このようなアルバムをさりげなくお持ちになるとは、さすが阿部さんです。

お次は、阿部さんに対抗して(?)、私も変わりだね。
ドン・ウィルカーソンというテナーサックス奏者のリーダーアルバム『プリーチン・ブラザー』より《キャンプ・ミーティング》。

プリーチ・ブラザー

プリーチ・ブラザー

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EMI MUSIC JAPAN(TO)(M)
  • 発売日: 2008/12/26
  • メディア: CD


う~ん、ロックンロール!なバッキングです。
このナンバーは、クラークの意外な(?)一面をご紹介できれば良いと思っただけなので、途中えフェード・アウト。
いよいよトリオに突入です。

ソニー・クラークはブルーノートとタイムという2つのレーベルから『ソニー・クラーク・トリオ』という同じタイトルのアルバムを出していますが、内容や雰囲気がまったく違うんですよ。
この2枚を聴き比べてみようということで、まずはブルーノート盤のほうから《朝日のようにさわやかに》。

ソニー・クラーク・トリオ (紙ジャケット仕様)

ソニー・クラーク・トリオ (紙ジャケット仕様)

  • アーティスト: ソニー・クラーク,ポール・チェンバース,フィリー・ジョー・ジョーンズ
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 1998/07/23
  • メディア: CD


ブルーノート盤の演奏は、評論家の故・油井正一氏が評した「後ろ髪ひかれるようなタッチ」いうと言葉がそのまま当てはまるような遅れ気味のタッチが気持ちの良い演奏。

もっとも今でこそ「気持の良い演奏」などと書いている私ですが、これを最初に聴いたときは、良さなど分かろうはずもなく、「なんだかパウエルやケリーに比べるとモゴモゴしたピアノだな~」と思ったものです。

この演奏のじわりとした演奏の良さが分かるには多少の時間が必要かも。

続いて、タイム盤のほうからは、阿部さんオススメの《ソニア》。

ソニー・クラーク・トリオ+6

ソニー・クラーク・トリオ+6

  • アーティスト: ソニー・クラーク,ジョージ・デュヴィヴィエ,マックス・ローチ
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2008/10/22
  • メディア: CD

ブルーノートのトリオをレコーディングしてから3年後の演奏で、この録音後間もなくクラークは亡くなります。

しかし、このふっきれたような明るさ、突き抜けるような爽快感はなんなんでしょう?

阿部さんは「クラークは、この3年の間に何があったのだろう?」としきりに首をかしげていましたが、そう思わせるだけのものがあります。

この演奏のニュアンスの差は、単にレーベルやバックのリズムセクションの差だけではないと思います。

私は明るく前向きに聴こえる《ソニア》を聴くたびに、背筋にゾクッとしたものを感じます。次いで、ほんのりと悲しい気分になります。

理由はよく分かりませんが、「死の直前の演奏」という物語に引きずられているわけではないと思います。

音楽そのものが持つ純粋なパワーに心が揺さぶられるのかもしれません。

阿部さんは「やることをある程度やりきった、出すものを出し切った完全燃焼な感じ」と仰ってました。

たしかに、タイム盤の演奏には、どんな人間にもつきまとう「煩悩」のようにモヤモヤとした余剰物のようなものが綺麗サッパリと無い。透明なんです。

そのピュアな音のパワーに私はゾクッと感動するのかもしれません。

ソニー・クラークは、アメリカ本国ではほとんど評価されず(麻薬中毒のためキャバレーカードがなく、ライブで演奏できなかった。つまり、あまり人前で演奏しないので知名度が上がらなかったということもあります)、しかも僅か31歳の若さでこの世を去ったピアニストですが、今回、ゲストの阿部さんと色々とクラークの良さを話し合っていると、短い生涯ながらもソニー・クラークのピアノの音は、確実に21世紀に生きる我々の中にも届いているのだということを再認識することができました。

阿部さん、ありがとうございます。

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