放送第24回 ジャコ・パストリアス特集(2)

じゃこのめさんがオススメのジャコ参加のジョニ・ミッチェルの音源。

これらを聴くたびに思うのですが、「もうひとつのヴォーカル」的な役どころをベースで担っているベースを聴くたびに、ジャコはベーシストだけではなく、“電気チェリスト”なる役割を担っていたのだなぁという思いが強まります。



それとは別の側面が顔を出すとき。
それは、リズミックなバッキングをしているときのジャコです。

たとえば、番組中でかけた音源を例にとると、オーレックス・ジャズ・フェスティヴァルでの《ザ・チキン》での演奏に顕著です。

この16分音符での空ピッキングを効果的に織り交ぜたプレイを聴くたびに、ジャコというベーシストは、ギタリストとしての役割をも担っていたベーシストなのだな、と強く感じます。

空ピックとは、音を出さないときも、規則的に右手の指を動かして弦をピッキングしている状態のことです。

パコパコしたパーカッシヴな音が出るのですが(ゴーストノートといいます)、この“実音を出さないときにも弾いている状態をキープする”奏法は、細かい譜割りを弾く時にはとても効果的です。

特に16ビートの曲においてはドラマーともタイミングを合わせやすく、重宝する奏法です。

タワー・オブ・パワーのロッコもこの奏法が得意ですが(『タワー・オブ・パワー』の《ホワット・イズ・ヒップ》に顕著)、ジャコも負けず劣らずこの空ピッキングで躍動的なリズムを生み出すことが得意なベーシストです。

▼鬼の16分弾きが1曲目で味わえます


この空ピックは、8ビートなら1小節の間に8回、16ビートなら1小節の中で16回、弦を規則的にピッキングします。

音を出そうが出すまいが、とにかく規則的に弦に指を当てる運動を繰り返す。
音を出す、出さないは左手で調整するんですね。

そうすると、定期的に同一速度で指を動かしているので、ジャストなタイミングで音が出せる。

音をださないときは、「ぱこぱこ」したミュート音が出るので、パーカッシヴなニュアンスが生まれ、よりリズミックなニュアンスが生まれます。

これはDTM(デスクトップ・ミュージック)をやっている人には分かりやすいかもしれませんが、1小節を16分割で考える。
つまり1/16の時間(16分音符)が16個集まって1小節と考える。

私の場合は、音符を打ち込む際は、ソフトの画面を1小節を16分割にしています。

そうすると、学校や音楽教室で習うよりも以下のような認識を体感しやすい。

8分音符(休符)は、1/16が2つ集まったもの
4分音符(休符)は、1/16が4つ集まったもの
付点4分音符(休符)は、1/16が6つ集まったもの
2分音符(休符)は、1/16が8つ集まったもの

打ち込みソフトの入力画面は、横軸の長さが音符(休符)としてビジュアライズされるため、視覚的に音の長さを認識しやすいのです。

特にドラムのパターンを打ち込むときには便利で、ドラマーではなくとも、グラフィカルに時間感覚の認識さえ持てば、簡単にドラムのパターンを打ち込めるのです。

DTMソフトの画面に慣れれば、1/16がどれだけ集まった長さなのかと音価を意識しやすいし、1/16の音をオンにするか、オフにするか、繋げるのか、繋げるとしたらどれぐらいの長さで繋げるのか、などとデジタルに考えやすいのです。

一見16ビートの譜割りは複雑そうに感じますが、実際は1/16の時間単位をどうデザインするか、切り貼りするかの世界。つまり細かく分解してゆけば、意外と難しくはないのです。

逆に細かく分解しない4ビートの音価(音の長さ)のほうが鷹揚でおおざっぱなだけに難しい(笑)。

きっちりと1/4を等分割した音符を打ち込んだところで、決して4ビートならではの“あのノリ”は生まれない。

私の場合は、DTMの際は1拍を120で考えています。

ということは、4/4拍子の場合は、
1小節は1拍が4つだから
120+120+120+120で、
480という認識になります。

しかし、4ビートの場合の1拍は、480をきれいに等分した120ではありません。

480=122+115+123+120 のように(数字は適当です)、1小節という単位時間内を埋める四分音符の長さは均等ではない。
1音1音の音価がベーシストによって違う。

そこが非常に4ビートの人間臭いところでもあるのです。

だから、いちいち音価を1音ずつ微修正しながら打ち込むよりは、人が弾いたほうが早いし、ニュアンスを出しやすいというのが4ビートなのですね。

ところが、16ビートの場合は、弾くのは人間ですからもちろん微妙なズレは発生しますが、細かく時間を細分化するだけに、音価の誤差は4ビートほど生じない。

上記DTMの考え方ですと、
480=30+30+30+30+30+30+30+30+30+30+30+30+30+30+30+30
という分割ですから、まずは均等に弾くよう意識が集中しますし、均等に弾けないとアンサンブルの中では話にならない。

あくまで上記数字はわかりやすい喩えとして出したまでですが、16系の得意な楽器奏者は、このような細分化された音符の感覚が身体の中に自然に染みついていると考えて間違いありません(ちなみに私は16が苦手なので染み付いていません。ただしDTMをやっていたおかげで、数字とデスクトップに表示されるビジュアルイメージで音価を把握しています)。

たまたまDTMを引き合いに出しましたが、16に分割された音価を「オン or オフ」で考える発想自体が、デジタルチックですよね。

この「16分割のオン・オフ」の発想が音として如実に表れているジャコの演奏のひとつが『ナイト・フード』の《エイント・ナッシン・バット・ア・パーティ》なのです。



私が最初に感じた「打ち込みミュージックみたいだ!」という感触は、まさに等分割された音符の「オン・オフ感」がベースラインに色濃く反映されていたからにほかなりません。

エフェクトがかけられているので、シンセ・ベースのような音色だということも、「このベースは打ち込みみたいだ!」と感じた理由の一つかもしれません。

フィル・インの際の微妙なピッチの揺れや、弦上を指がスライドするフレーズで、ようやく、「あ、これは打ち込みじゃなくて、人が弾いているんだ」と気がついたほど、この曲のベースラインは、デジタル・ライクな16ビートです。

ジャコは、多くの曲を、空ピックという奏法で、安定したリズム感と音価を右手の2本指から紡ぎ続けました。

しかし、普通の人があれだけの運動量をこなすと、まずは腱鞘炎になります(涙)。要注意な奏法です(笑)。

なにしろ、1小節に16回、10小節で160回、100小節で1600回の運動量ですからね!

100小節といえば、ブルースやチキンのような12小節の曲の場合は8~9コーラスを繰り返す長さ。
オーレックスのチキンぐらいの曲の長さで、ちょうど100小節ぐらいの長さ。じつに、たったあれだけの曲で、ジャコの人差し指と中指は800回ずつ(計1600)の往復運動を繰り返していることになります(笑)。

このような曲を一晩に10曲演奏したとなると、人差し指と中指、それぞれ8000回ずつの往復運動を繰り返しているというわけで、それはもう、私のようなヘッポコ指のベーシストだったら、何度腱鞘炎にかかってもおかしくはない量です(涙)。



もちろん、ジャコは、すべての曲に空ピックを用いているわけではないですし、メロディアスなフレットレスならではのニュアンスを活かしたプレイもたくさんしているわけなので、数字に置き換えて考えるのは、あくまでジャコの運動量の多さの目安程度に考えてください……。

これは私なりの見解ですが、なぜジャコは16ビートの空ピック奏法にこだわりつづけたのかというと、ハイラム・ブロック、マクラフリン、ビレリ・ラグレーンらを除けば、ほとんどギタリストとの共演がありません。

上記ギタリストとの共演もハイラムを除けば、企画ものの一発共演的な要素が強く、レギュラーで組んでいたわけではありません。

活動歴の長いウエザーリポートにしろ、ビッグバンドにしろ、ギタリストのいないバンドでジャコはベースを弾いている時間が長かった。

ジャコが16ビート系の曲で繰り出す、あのような細かい刻みは、普通はギタリストの担当なのですが(♪わかちょこ、わかちょこといった刻み)、ジャコの場合はギタリスト不在のぶん、自分のベースでリズムギターの役割をも担っていたのではないかと思うのです。

シックにしろ、JBバンドにしろ、アース・ウインド・アンド・ファイヤーにしろ、ベースラインは印象に残るラインは多いものの、ベーシストの運動量はそれほど忙しくないですもんね。
そのかわり、ギターがシャカショコとリズム刻みに忙しい。

しかし、ジャコのバンドにはリズムを刻むギタリストが不在のことが多い。

だからこそ、ジャコはベーシストでありながら、リズミックな曲のバッキングにおいてはギタリスト的な発想で演奏に臨んでいたのだと思います。

単に「低音でリズムをキープする」という役割を越え、旋律との絡みでは「チェリスト的な発想」、リズミックな伴奏においては「ギタリスト的発想」という2つの発想を音で具現化した。

それこそが、ジャコが「従来のベースという概念をやぶった革命児」と呼ばれている所以だと思います。

この記事へのコメント

  • じゃこのめ

    なるほど…すごい分かりやすい解説ですね。さすが。
    私は今回の収録を契機に、久しぶりジャコのアルバムに真剣に向かい合いました。選曲は結果的にジョニ・ミッチェルを2曲入れてしまうことになりましたが、ますますジャコが好きになったような気がしますし、このような親切な解説で、彼の偉業が分かりやすく伝えれるのはとても嬉しいです。
    2009年03月15日 23:27
  • じゃこのめさん

    コメントありがとうございます。
    いやぁ、わかりやすかったですか? ならいいんだけど(汗)。

    普段、自分では当たり前のように身についていることを、改めて言語化するのって、かなり難しいことなんだなぁと書きながら痛感しました。

    読み返してみると、長いなぁ、って(笑)。

    それでもわかりやすいのであれば、嬉しいです。

    私も改めてジョニ・ミッチェルを聴き返しているところです。
    やっぱりベーシストとしてのプレイのセンスみたいなもの? それは、ジョニの歌伴に非常によく出ていると思います。
    すごく好き勝手、というと御幣がありますが、伸び伸びと自由に弾いているなぁと。

    ジャコを起用したジョニのセンスもすごいと思います。
    2009年03月16日 14:22

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