放送第25回『ハードバップ特集』(3)

taylor.png


50年代中盤から60年代前後までのハードバップの魅力。

それこそたくさんあるのですが、メロディもさることながら、リズムの懐の深さについても触れておこうと思います。

一言で言えば、表面的には「柔」でありながら、その実、かなりしたたかに「剛」であることが大きな特徴。

一聴、なんの変哲もない4ビートに感じても、このニュアンスを現代で出せるジャズマンがどれほどいることか。

ハードバップのリズムマンといえば、ベースはポール・チェンバース、ダグ・ワトキンス、サム・ジョーンズあたりが代表的。

ドラムスは、やっぱりアート・テイラーやフィリー・ジョー・ジョーンズでしょうね。

彼らの組み合わせ次第で生まれてくるリズムのニュアンスも微妙に異なってはきますが、なんといっても、出せそうで決して出せない魔法のリズムの宝庫がハードバップの魅力でもあります。

魅力的なメロディを柔軟に支えつつも、その実、かなりリズムに腰とバネがあるのです。

この深みは、なかなかです。
よくすぐれたモダンジャズは聴いて飽きない、聴くたびに新たな発見があるといいますが、この要因はメロディのみならず、懐の深いリズムにこそ秘密があるのかもしれません。

単調なようでいて、結局最後まで気持ちよく聴かせてしまうだけの深みがあるからなのではないか。


アート・テイラーのドラミングなんて、曲によっては単にリズムキープをしているだけのような単調さを感じることもあるかもしれませんが、なかなかどうして、あのニュアンスは出せそうで出せないのではないかと思います。ドラマーではないからよく分からないけれども、現在のジャズシーンでアート・テイラーのようなニュアンスのドラマーっていそうでいませんからね。


もっとも、ビート感やそのニュアンスというのは、なかなか厄介なもので、時代のスピードとともに、求められるビート感というものも異なってきます。

決して50年代はおおらかな時代だったとは思いませんが、時代とともにジャズの4ビートのビート感、スピードはどんどん速くなってきている。(テンポじゃなくてスピード感ね)


現代的か、昔風なのかのリズムのニュアンスの違いって、結構リズムのスピード感の違いが大きいです。


スティーヴ・ガッド以降の4ビートに慣れてしまうと、どうしてもアート・テイラーのようなスピード感のドラミングは、多少野暮ったく、オールドなスタイルに聴こえてしまう人もいるかもしれませんが、じゃあガットがテイラーのようなニュアンスで叩けるかというと、たぶん無理でしょう(笑)。


ロイ・ヘインズのように、はるか昔、パーカーとの共演時代からスピード感のあるドラマーもいましたが、時代の求めるスピード感とはじゃっかん違っていたところもあるようで、彼が脚光を浴び始めるのって、チック・コリアの『ナウ・ヒー・シングズ』あたりからでしょう?

ようやく時代の求めるスピード感と、ヘインズのスピード感の歩調が合い始めてきている。
リズム感の俊敏なヘインズだからこそ、90年代になってもパット・メセニーのような世代の違う、時代を代表するミュージシャンと違和感なく共演できたわけですね。

ミュージシャンの名声や仕事量というものは、単にテクニックの巧拙といった表層的なものを越えて、ミュージシャンが身体的に備わっているリズムのシャープさやスピード感というものが、時代の求めるスピード感や、その時代時代に求められるそれぞれのジャンル特有の共同無意識の最大公約数的なビートに合致するかしないかが、非常に大きなウェイトを占めていると考えます。

だから、受け入れられないまま、時代とシンクロしないまま一生を過ごす不幸なミュージシャンがいてもおかしくない。

たとえば、セシル・テイラーのピアノの持つスピード感や、シャープネスさ。
彼は半世紀以上にわたって前衛音楽を表現し続けていますが、真にテイラーのピアノが受け入れられた時代はいまだにないと思う。
今後もそのような時代がやってくるかどうかは疑問だし、仮に時代の速度がテイラーの速度に追いついたとしても、そのときに彼は、もう生きていないかもしれません。

前衛音楽家のテイラーを例にあげるのは、ちょっと極端かもしれませんが、ピアニストでいえば、他にもアンドリュー・ヒルやハービー・ニコルズのようなウェットで重たい時間間隔も、時代のタイム感とはシンクロしにくい類のものなのではと思います。

だから、たまたまテイラーやワトキンスのようなタメを効かせたバックビートは、現代の基準からしてみれば、昔風のリズムってことになっちゃうんでしょうが、少なくとも50年代中盤から60年代の初頭までは、時代のタイム感と合致していた。

そして幸いなことに、彼らの素晴らしいタイム感によって演奏された音源が膨大に残っており、我々のようなハードバップ好きが日本にはまだまだたくさんいるとう幸せな状況。

われわれは日夜それらの音源を楽しめるという幸せがあります。

野暮ったさと、センチメンタルさ一歩手前の寸止めの快感を帯びているメロディアスな曲がハードバップには多いですが、これらが十全に生かされたのは、柔軟で肉厚なリズムあってこそ、だと思います。

ハードバップ特有の熱気と切なさを下からムクムクと底上げしているのは、リズムセクションの働きあってこそなのだと私は思います。


先日、番組ではマクリーンの『スイング・スワング・スインギン』をかけたので、今日は個人的にマクリーンの『メイキン・ザ・チェンジズ』を一人聴きながら悦に入ってましたが、「そうそう、やっぱりこのリズム、この感じなんだよな~、嗚呼、ハードバップぅ~」なのであります(笑)。



この記事へのコメント


この記事へのトラックバック