放送第21回『現代ヨーロッパのベーシスト』(3)

「快楽ジャズ通信」を収録しているTFMのスタジオは、当然ながら音楽スタジオではないので、音響設備や機材などを含め、楽器の録音を前提とした環境ではありません。

しかしながら、そんな中でもディレクター嬢も結構頑張ってくれて、普通のマイクの1本録りにもかかわらず、池田師匠のチロリアンベース、いい音で録られているように感じました。

何人かのリスナーの方からも「いい音だった」というお声も頂戴しています。

もちろん、ナチュラルな録音なのでエコーなどのエフェクトは一切かけていませんし、マイク一本でも、池田さん所有のベースが本来持つ深みのある音を捉えられたんじゃないかという気がしています。

さて、放送中、ウッドベースの弦の話のところで、池田さんはご自分のベースにはクラシック用ではなく、ジャズ用の弦を張っているというお話をされていました。

ジャズ用の弦は、ピチカート(指弾き)前提のエネルギー感とパワーを重視した弦なので、アルコ(弓)弾きをした際は、音が落ち着かずに暴れることもあるということは放送中でもおっしゃっていたとおり。

クラシック用の弦は、弓弾き前提なので、ピチカートだと少しおとなしい感じがします。

そして、クラシック弦は、やっぱり値段が高いですね(笑)。

高いものだと1本の弦で安いエレキベースを1本買えてしまうほど。

私が使っている弦は、ジャザーやスピロコアというジャズ前提の弦で、だいたいセットで2万ちょっとぐらいの値段ですが、クラシック用の高級な弦だと、その倍以上するものもザラです。

う~ん、クラシックはやっぱりお金かかるなぁ(*´Д`)=з

先月の「スイングジャーナル」の「ジャズ楽器 いまさら聞けない基礎知識/第11回 ベース編」にも書きましたが、ウッドベースの弦には様々な種類があります。



弦といえば金属やナイロン製のものをイメージする方も多いとは思いますが、もとより弦楽器の弦は、羊などの動物の腸(ガット)から作られたもの。

ベース友のtommyさんは、チャーリー・ヘイデン好きということもあり、ちょうど昨年の今頃、ガット弦の研究に夢中になり、ご自分のウッドベースにガット弦を張っていたことがあります。
(正確にはヘイデンの弦はナイロン・ガットですが)

私もこのベースをしょっちゅう弾かせてもらっていましたが、弦の感触が金属製の弦とはまったく違いました。
ほとんど別の楽器を弾いているといっても良いぐらいの違いです。

とにかく、音にアタックはないし、音量も低い(私の弾き方が悪いのかもしれないけど)。
音質もモコモコしていてあまり「通る」音ではないし、これにドラムやギターやサックスなどが大音量でかぶさると確実にパワーとボリューム不足で埋もれてしまうだろうな、と思いました。

しかし、音色はというと……。
これがまた深い音色なのですね。

ベースの胴のfホールからは暖かい空気とともに、柔らかくて空間を包むような太くてまろやかな音が放たれるのです。

これは自分が弾いているときよりも、tommyさんが弾いている音をベースの目の前で聴いているときのほうが気持ちいい(笑)。

それは自分で弾いているときは、音が発せられるポイントよりも後ろに立っているので、どうしても自分が出している音を直視、じゃなくて、直聴出来ないからです。

でも、この深みのある音は、一度虜になると病みつきになることは確か。

しかしだからといって私が現在その弦を使っているかというと、残念ながら使っていません。

それは、どうしても演奏する音楽を選ぶからです。

それ以前に値段の問題もありますが……(笑)。

たとえば、ギターやピアノとのデュオでは、素晴らしい音空間で場を包むことが出来るでしょう(ヘイデンのアルバムにデュオが多いのも分かるような気がします)。

しかし、人数が多くなればなるのど、音がどんどん埋もれてきてしまいがちです。
たとえば、クラシックのホールのように、音響を考えられた施設であればきちんと低音も響きわたるのでしょうが、普通のライブハウスや屋外では、音の存在感は発揮できないと思います。

それに加えて、私のウッドベースにはマグネットのピックアップが取り付けられています。
これは、ベースの芯線が金属である場合は金属の振動を信号に変えてアンプに出力しますが、ガット弦の場合は、金属の要素がまったくないので、ピックアップは音を拾わないんですね。
マイクで拾うしかない。

だから、演奏するときには不便なことが多いのです。

ヘイデンの音色、ニュアンスにこだわっていたtommyさんは、ガット弦を張ったベースを沖縄に持ってゆき、ジャズカフェ「スコット・ラファロ」の常設ベースにしようとしました。

ところが、店のオープン前に、店のアンプにつないでガット弦のベースを弾くと、全然音が出ない(笑)。店内も広いので、生音は他の楽器にかきけされてしまいまったく聴こえない。

だから、さすがのtommyさんも「雲さーん、ベースの弦、普通のやつに張り替えて!」となったわけです。

普通の弦とは、すなわち芯線が金属性のものですね。
たしか、そのとき私が張り替えた弦は、スピロコアだったと思いますが、まさにこの弦は、ジャズのピチカートに適した弦なのです。

張り替えたら、しっかりとピックアップ乗りの良い通る音になりました。

ドラマーは、スティックの材質や重さ、スネアなどの材質やサイズにこだわるでしょう。
サックス奏者はリードやマウスピース、トランペッターもマウスピース、ギタリストはギターのタイプや弦のゲージ(太さ)など、こだわりや悩みの種は尽きないと思いますが、ベースもこと弦ひとつで、ずいぶんと音は変わるし、それに適した音楽の種類も変ってきます。

自分がやりたい音楽、出したい音楽によって、このように楽器のセッティングや装備もおのずと変わってくるもので、どのタイプの音楽にも適応する万能の楽器やセッティングというものは存在しないと思います。

あとは自分自身の弾きごこち、楽器の音色、ふところ事情(笑)、共演者やお客さんの反応を見ながら、落としどころを見つけたり、あるいは人がやらない新たなセッティングや組み合わせにチャレンジしたりと、このようなことも楽器奏者の楽しみ(悩み?)の一つなのです。

「スイングジャーナル」の上記記事・セッティング編の締めに、
“ノリやフレーズ以前に、ベースのセッティングそのものがベーシストの音楽観を物語ることもあるのだ”
と書いたのは、まさに楽器奏者としての経験と気持ちが、自然に出たからなのだと思います。

楽器を弾かないジャズ好きは、ジャズマンの表現内容を、精神的な動機に還元して解釈したがる人もいるようです(たとえばサックスのフラジオなど)。
もちろんそれもあるでしょう。

しかし、ジャズは楽器演奏音楽でもあります。
そして、楽器を弾かない人の想像以上に、演奏者は楽器というハードの特性の差によって音色やフレーズが左右・決定されることも大きいのです。

我々は、環境によってものの考え方が変わりやすいように、楽器奏者だって、扱うハードの性質によって、演りたい音楽や、表現したい内容も微妙に変わってくるものなのかもしれません。

一例をあげると、マウスピースの調子が悪かったために『バラード』を吹き込んだコルトレーンの逸話が有名ですよね。

もちろん、どんな楽器を持たせても表現内容にブレのないパーカーやオーネットのような強靭なスタイリストもいることは確かですが……。

楽器を知れば、ジャズはもっと楽しくなる!
と私は常々思っています。

▼チックの奔放なエレピは、音色・倍音の違いという音響的特性よりも、もしかしたら「ピアノの鍵盤よりもタッチが軽い」という単純な理由で生まれたのかもしれない。


この記事へのコメント

  • tommy

    雲さん、こんばんは。

    同じ日にコルトレーンのバラードを話題にしているとは・・・。
    ブログを書き終わって、これを見たのですがスバラシイ~!
    明日はビリー・ハーパーかマリオン・ブラウン?(笑)
    2009年02月26日 02:40
  • tommyさん

    出張校正で、先ほど戻ってきたところです。
    いやはや、なんとかかんとか完了!

    バラード。
    テナー奏者違えど、偶然ですね。
    マリオン・ブラウンはリクエストに微妙にお応えしておきました(笑)。
    2009年02月27日 00:46

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