人と一緒に聴くジャズ

一子さんゲストの今回の収録でのいちばんの収穫は、チック・コリアの《マトリクス》が、これまで聴いてきた中で、もっとも素晴らしく聴こえたということです。

もちろん、疾走感あふれる非常に「頭良い・カッコ良い」演奏だなぁと聴くたびに感じていたのですが、隣には、この曲の髄までをしゃぶり尽くした一子さんが、チックのアドリブに合わせてハミングをしながら、手を振りながら聴いているんですよ。

そのようなシチュエーションで聴くと、聴こえ方はまったく変わります。
スピード感のみならず、なんて奥深い演奏なんだろう!と感動を新たにしました。

皆さんも、きっと経験あると思うんですが、
本当にその音楽が好きな人と一緒に聴くと、

いつも以上に音楽が素晴らしく聴こえることってありませんか?

たとえば、学生のころなど、

友達や恋人に自分が好きな音楽をテープやMDに編集して

「これ聴いてみてよ!」

と渡していた人、多いと思います。

渡す相手の顔を思い浮かべて録音している時って
いままで以上に音楽が良く聴こえたってことありませんか?


また、親しい友人の自宅などで、「これいいよ」と言われながら聴かせてもらう音楽って、すごく良く聴こえることってありますよね?

私もそういう経験はしょっちゅうあります。

たとえば、ジャコ・パストリアス研究家のじゃこのめさん(⇒http://www10.ocn.ne.jp/~jaco/)と一緒に聴くジャコって、いつもより30%増しによく聴こえるんですよ(笑)。

じつは彼、スタンリー・クラークやクリスチャン・マクブライドのマニアでもあるんですが(笑)、これ聴いたことないでしょう? とニヤニヤしながらかけてくれるアルバムは、ほんと確かにおっしゃる通り!まいりました~!なんですよ。

番組収録中も、そのようなことはしょっちゅう起こります。

松本茜さんがお勧めのフィニアス・ニューボーンの《ラッシュ・ライフ》をスタジオで一緒に聴いた時は、何度も聴いていたはずのフィニアスのピアノが違う色彩を帯びていました。

市原ひかりさんが絶賛するマイルスの《マイ・ファニー・ヴァレンタイン》も、マイルスのトランペットが鳴った瞬間に、これまで感じた中では最高の《マイ・ファニー・ヴァレンタイン》を感じました。

ビリー・ホリデイ大好き!の金田さんをゲストに招いて聴いた金田さんの人生のテーマ曲《デイ・イン・デイ・アウト》も、収録後しばらくは、私にとっても日々のテーマ曲になってしまいました。

その人が音楽に抱く愛情のオーラがこちらに伝播するんですよね。
だからより一層素晴らしく聴こえる。

油井正一さんも「ジャズが好きな友達を持て」というようなアドバイスを生前されていたそうですが、これ、わかるような気がします。

一人で向き合って聴くジャズも良いですが、たまには、ジャズが好きな友人や、その人が大好きなジャズを一緒に聴くことも大事なことだと思います。

一人でじっくり鑑賞するときは、私の場合ノートを広げてペンを握ると自動的に鑑賞モードにスイッチがはいります。
これは長年の習慣からかもしれませんが、何か気付いた点、ポイントになるところなどをメモろうという意識にスイッチが入るんですね。

もっとも、書かないことのほうが圧倒的に多いのですが(笑)、大事なことは「ペンを持つ」という行為が、「よし、聴くぞ!」と、音に向き合うマインドにスイッチを入れる儀式になっているんでしょうね。

人と一緒に聴く時は、無意識に「相手にイキなコメントを返してあげないと失礼だ」というサービス精神が、もしかしたら鑑賞モードを深めているのかもしれません。

冷静に分析すれば、いろいろな要因はあるのでしょうが、

やっぱり愛情オーラに包まれたジャズって聴こえ方、違います。

たとえば、昼過ぎの「いーぐる」に行くといいですよ。
マスターの後藤さんがレコードをかけているときの空気は明らかに違うから。

ビシッ!と締まっているんですよ。

特に、ここぞ!というところに、ハードバップの名盤B面(たとえば)がかかったときなどは、レコード室の中から「どうだ!」という気合いがヒリヒリと痛いほど伝わってくるんですよ。

だから、普段聴き慣れている名盤も、まったく聴こえ方が違う。
音に気合いがこもっている。いつもに増して演奏が勢いづいているように感じる。

錯覚かもしれませんが、私はいつもそう感じています。

もしかしたら、オカルトめいたことを書いているのかもしれませんが、やっぱり人間の感受性って、シチュエーションやムードにものすごく左右されると思います。

その一例として、演奏前にアナウンスがついた音源と、アナウンスがカットされた音源とでは、聴こえ方がまったく違うこともありますよね?

そんな話を交えながら、今週末の「高野 雲の快楽ジャズ通信~What Is This Thing Called Jazz?」は、「コルトレーン入門」です!

お楽しみに~!(笑)