放送第13回 『2008年ベスト』(3) マーク・アイザの『オファリング』


先日の番組ラストにかけたマーク・アイザの『オファリング』は、私のセレクションです。

とはいえ、この音源も以前、タワレコの吉村健さんに「雲さん、ジャジー・ヒップホップも聴きなよ」と紹介された音源ではあるのですが(笑)。

マーク・アイザは、スペインのドラマーです。


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このアルバムの1曲目のタイトル曲を聴いて、
まずはウッドベースのセクシーな音色に引き込まれました。

ついで、ロジャー・マスのエレピのまったりとした艶やかさ。
中盤よりラップ風のトークが薄くかぶさりますが、
私は演奏そのものや、演奏の方法論よりも、
まずは音色の色気でこのアルバムに引き込まれたわけです。

同じく、この《マーヴィン・ゲイ》という、マーヴィン・ゲイの曲ではないんだけれども、強烈にマーヴィン・ゲイを感じさせる不思議なトラックにもはまりました。

このシンコペーションしないマーヴィン・ゲイは、とくにスクエアなベースラインがかえって現代風モータウンを感じさせ、不思議に心地よい肌ざわりです。

《オファリング》と《マーヴィン・ゲイ》。
この2曲に共通しているのは、
非常にゆる~くマッタリと心地がよいこと。

まさに、この2曲が奇しくも吉村さんお勧めのトラックだったのですが、なるほど、これがジャジー・ヒップホップといわれれば、このようなテイストがそうなのか!と納得させられるだけの音の雰囲気はあります。

ジャズ喫茶などでコーヒーとタバコを共に、
腕を組んで聴くようなサウンドではなく、
むしろ、六本木のゼットンのような場所で、
カウンター越しにヒルズや東京タワーを眺めながら
店の片隅にさりげなく配置されているインテリア風の無指向性スピーカーから品よく低いボリュームで流すBGMにうってつけなのです。

ラムなどを飲みながらじっと耳を澄ませばとても心地よい気分になれるし、同伴者がいればいいムードで会話が自然に盛り上がる上質なBGMにもなるトラックです。

しかし、マーク・アイザはスペインのドラマーなのですが、ジミー・コブやブライアン・ブレイド、さらには、ホルヘ・ロッシーや、ボブ・モーゼスといったドラマーたちから手ほどきを受けているスゴ腕ドラマーでもあります。

ゆるいグルーヴの曲ばかりではなく、ドラマーならではの腕の見せ所のトラックがないのかと探したら、ありました、ありました。

《マチルダ》という曲。

前へ前へとつんのめるように繰り出される性急なリズム。
手数はかなり多く、演奏が進むにつれてエキサイティング度が増してゆきます。

エレピ、ムーグを音数少なく、効果的に使用しているロジャー・マスも、このトラックでは、最初と後半に最小限にシンセをかぶせるのみで、演奏全般にわたってほぼピアノ一本で臨んでいます。

ピアノは正直、猛烈なテクニシャンというほどではないのですが、
緊張と哀愁を行き来する曲の構造が幸いしてか、
ビターとスウィートの緩急が非常に素晴らしい。

切なさを感じさせつつも、ダラリと哀感のオンパレードになりすぎないところがいい。
それは、緊張感あふれるアイザのドラミングによるところも大きいのですが、ジャズ的なスリルと、ほどよい哀感がブレンドされた名演奏です。

このアルバムの中では異色ともいえるハイテンションなこの演奏が、最近の私のヘヴィーローテーション曲。

先日行われた「いーぐる」の年末ベスト持ち寄り大会の前の週あたりが、ちょうどヘヴィローテーションのピークでした。

1日10回以上聴いていた日もあるほど。

だから、年末持ち寄り大会でも、迷わずこのトラックをかけました。

ボリュームを上げれば上げるほど高揚感と哀愁が増すこのナンバー、「いーぐる」のJBLからは心地よく放たれていました。
私は気持ちよく聞いたのだけど、他の人はどう感じていたか分かりません(笑)。

で、番組中でも、この《マチルダ》をかけようかとも思ったのですが、ちょうど前にかかった曲がDJカムのジャジー・ヒップホップの話題だったので、話の流れで《マチルダ》をやめ、ジャジー・ヒップホップの文脈にそった《オファリング》のほうを選曲した次第なのであります。




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