放送第17回「マイルスが愛したピアニストたち」

さて、お待たせしました。

というか、お待たせしてすいませんでした(汗)。

アキコ・グレースさんがゲストの放送第17回目、テーマは「マイルスが愛したピアニストたち」です。

アキコ・グレースさんとは、以前TFMのロビーで偶然バッタリお会いした際、マイルスとトリスターノで話が盛り上がったので、だったらマイルスの音楽やピアニストを、ピアニスト目線で番組で語ってもらったら面白いだろうなと思ったので、今回はゲストとしてご登場いただきました。

最初にかけたのは、『1969 マイルス』より《ラウンド・ミッドナイト》。
これ、スローテンポなのはテーマのみで、アドリブパートにはいった瞬間は暴走特急のように強引なアップテンポになる凄まじくエキサイティングな演奏なのですよ。



『ビッチェズ・ブリュー』録音の半年前のライブ演奏です。
もとより、アキコ・グレースさんは『ビッチェズ・ブリュー』が好きだということをマネージャーさんから伺っていました。
だったら、同時期の演奏、それも大所帯の『ビッチェズ』に対してコンボ編成の『1969』はどう感じるか?という興味と、アキコさん自身もたまに弾くエレピ(ここではチック・コリアのエレピ)をどう感じるのか?という興味もありました。

演奏がかかっている間は、二人でカッコいい、音の歪みがいい、などと言い合ってました(笑)。

アキコさんからは、ピアノとエレピの違いをピアニスト的なスタンスで明快な説明があります。
キーのタッチの違いのみならず、倍音の話も出たことは興味深かったですね。

次の選曲も私です。
『マイルス・スマイルズ』から《オービッツ》。



テーマは、「弾かないハンコックもカッコいい」。

『マイルス・スマイルズ』においてのハンコックは、極端といってもいいほどピアノを弾いていません。
《フット・プリンツ》のような例外はありますが、基本的にはアップテンポの曲では管楽器のバックではほとんどピアノを弾かず、自分のソロの順番が回ってきてようやくピアノを弾くという展開が多いのがこのアルバムのハンコックの特徴。

しかも、左手ではほとんど和音を弾かず、ほぼ右手のシングルトーンのみでアドリブを取っているところが、かっこいいのです。

ハンコックといえば、「いかにもハンコックのにおい」がする、テンションきつめの和音を思い浮かぶのは私だけではないと思います。
つまり、ハンコックもセロニアス・モンクやビル・エヴァンスと同様、独特の和音の響きそのものが強いキャラクターになっている人なのです。

そのハンコックが和音を弾かず、シングルトーンのみでアドリブを奏でた内容は、どことなくレニー・トリスターノを彷彿とさせるところがあります。

トリスターノの《Cマイナー・コンプレックス》と、《Gマイナー・コンプレックス》が大好きなアキコさん(私も好き)が、このハンコックのアプローチにどのような反応を示すのかが、今回の興味の焦点でした。

右手のホリゾンタルなラインは、確かにトリスターノ的だとグレースさん。
さらに、ハンコックのシングルトーンで聴かせてしまうセンスと構築力にも感心されていました。

お次はグレースさんの選曲、
ミケランジェリ(アルトゥーロ・ベネデッティ)のシューマン曲集、『ウィーンの謝肉祭の道化芝居』より《ロマンス》です。



私、ミケランジェリはドビュッシーの作品集はよく聴いていたのですが、シューマンは初めてでした。

ミケランジェリはエヴァンスが大好きだったピアニスト。
そして、マイルスの自伝によるとエヴァンスはマイルスにもミケランジェリを進めているそうです。

私は、マイルス自伝は、原書もハードカバーとソフトカバーの2種類を買いこんだほど、学生時代の愛読書だったのですが、残念ながらクラシックには興味がなかったからなのか、エヴァンスがマイルスに聴くように勧めたクラシックピアニストがミケランジェリだということは覚えていませんでした。

しかし、グレースさん、ちゃーんとご自身の大学の卒業論文をスタジオに持参されて、マイルス自伝の引用のところを見せてくれました。

中山康樹さん訳の「オレ調」マイルス節に慣れていた私にとって、グレースさんが原書から日本語に翻訳した文章の抜粋は妙に新鮮でした。
特に、マイルスの一人称が「僕」になっているところが(笑)。

これは、片岡義男翻訳の『チャーリー・パーカーの伝説』の中でもマイルスの証言が翻訳されていますが、ここではたしか「私」と訳されていた記憶があります(笑)。

一人称が「僕」や「私」に変わるだけで、ずいぶんマイルスのイメージって変わってしまうからおかしいです。
やっぱり、これは康樹さん訳の「俺節」に慣れてしまったせいなのか?(笑)

ミケランジェリの演奏は、時間の中に溶けてしまいそうなほどスタティックでしんみりとした演奏でした。
このスタティックさを好んだエヴァンスを雇いいれたマイルスは、従来のノリの良い黒人ピアニストたちとは一線を画したサウンドをグループ表現をしたかったのでしょう。

そのような話をしながら、ミケランジェリにまつわるウンチク話をしていた記憶があるのですが……、さきほど送られてきた同録を聞いていると、どうやらその部分はディレクター嬢によって丁寧にカットされていたようです。

弟子が1000人や2000人もいるといわれていたり、医者でもあり、レーサーでもあり、元パルチザンでもあり、キャンセル魔でもあり、神経質であり……、などなど、なかなか変わったキャリアと話題性の持ち主の人なので、グレースさんと彼にまつわる話をひとしきりしていた記憶があるのですが、たぶん編集上の都合でのカットでしょう。

さて、いよいよアキコ・グレースさんの新譜紹介のコーナーです。

今度の新譜『ピアノリウム』は、ソロピアノの演奏集です。



月に一度のペースで音楽配信していたピアノソロの曲を、再編集したのがこのアルバムですが、なにせめちゃくちゃ音がいい。まるで目の前でグランドピアノを弾かれているような、そんな錯覚すらしてしまうCDです。

アキコ・グレースさんのピアノのタッチはかなり強く、芯がある。
面と向かって「あなたのタッチは強すぎて、骨身に染みました」と言ってしまったのだけれども、同録を聴くかぎりではそのセリフがなかったということは、もしかしたら音楽がかかっている間の会話でしたのかもしれません。

力強いタッチで、確信を持って描かれる独自の音世界。

私がお気に入りの曲は、まずは《真空の水》。

次いで《夏の終わりの海の沙汰》、《雨上がりに》、《白銀の月》がお気に入りでしたが、番組でかけるのなら《真空の水》と《雅やか》の2曲が広がりがあっていいかな、と思っていました。

で、グレースさんの選んだ曲は、《真空の水》と《雨上がり》でした。
《真空の水》は、真空状態な無の空間に水が登場する様を音で描写した曲。この説明を聴いた瞬間、個人的には中原中也の詩を思い出しました。
詩のタイトルは忘れたけど、虚無とウェットの対比を見事に描き出した詩があるんですよ。

《雨上がり》は、文字通り、雨がやんだ後の、ささやかながらも嬉しい気持ちを、ルンルンしすぎない軽やかさで表現された演奏です。
高校生のときに私が作った曲に一部似ているところがあるのでビックリです(笑)。

それにしても、《真空の水》と《雨上がり》。
まるで、水の“満ち”と“引き”の対比で選んだのかな?

それとも“濡”と“乾”を並べてみる試みなのかな?

このような深読みをしてしまうグレースさんの選曲ですが、この選曲で聴いた『ピアノリウム』は、なかなかよかったです。

今回は、なかなか実りのあるお話をたくさんできたと思います。

話した内容を書きだすと、本当にキリがないのですが、なんと、いっきさんが放送内容をかなり近いところまで再現してくれています。
▼Part 1
http://ikki-ikki.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-ef5d.html
▼Part 2
http://ikki-ikki.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-49ef.html

いつもそうなのですが、今回もよくぞここまで聴いてくれ、書いてくれてありがとう!といっきさんの熱意には頭が下がる思いです。

この記事へのコメント

  • いっき

    雲さん。こんばんは。

    今回の放送は聴くうちにこれは面白いということになったので、こまかく書いてしまいました(笑)。そろそろ手抜きをしようと思っているんですけど・・・。
    グレースさんが雲さんの聴き方を見抜いたあたりはちょっと感動(笑)。お2人の音楽への気持ちが通じるっていいなあと思いました。
    アフター・アワーズ編になると、グレースさんがかなりノリノリな雰囲気になっていたのもよくわかりました。
    2009年01月29日 22:35
  • いっきさん、コメントありがとうございます。
    そして、いつも詳細なレポートをありがとうございます。

    >グレースさんが雲さんの聴き方を見抜いたあたりはちょっと感動(笑)。

    見抜かれました。
    非常にクレバーな方です。
    クレバーであると同時に、ひとつのものごとを深くつきつめて考えられる方だと感じました。
    それが、前作と今回の新譜にも音として表れているんじゃないかな?

    以前「非バップ的」とグレースさんのピアノに関しては書いたことがあり、それを本人に直接ぶつけてみたところ、誤解されずに、むしろ好意的に受け止めていただいたので、とても嬉しかったです。

    番組収録後にポロっと漏らしていたのですが、グレースさんは、じつは人見知りだったのだそうです(笑)。
    こんなに話したことは滅多になかったのだそうです。

    え~、結構喋ってたじゃん!(笑)と思ったんですが、どうやらこの番組をお気に入りいただけたようで(笑)。

    これもうれしかったなぁ。

    最後はほんとノリノリになってきていましたからね。
    2009年01月30日 20:18
  • 『中也が愛した女』 事務局

    突然のコメント失礼致します。

    この度 弊社で企画・制作致します舞台、
    『中也が愛した女』 のご案内をさせて頂きたく
    不躾ではありますがコメントさせて頂きました。

    誠に勝手で申し訳ございませんが、ブログを
    読ませていただき、関心を持っていただければと、
    投稿いたしました。

    下記URLが「中也が愛した女」のサイトです。
    http://www.chuyagaaishitaonna.com/

    ご興味がありましたら是非お越しくださいませ。

    このようなコメントが失礼に当たりましたら大変申し訳ございません。
    何卒御容赦くださいませ。
    2009年02月18日 17:38

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