寺島さんが拒否反応を起こしたバド・パウエル

さて、先日ゲスト出演をした「寺島靖国のPCMジャズ喫茶」のお話を少々。

PCM放送ゆえ、受信用の機材が必要なので、お聞きになれない方も多いと思われるので、少し、放送内容のネタばらしをしてしまいましょう(笑)。

この番組は、出演者が持参したCDを順番にかけ、それに対して全員がコメントをするというわかりやすいルールで成り立っている。

そして、必ずゲスト出演者が一番最初にアルバムをかけるというルールもある。

よって、そのルールにのっとって、まずは私が先発でCDをかけた。
かけたCDは、バド・パウエルの『ジャズ・ジャイアント』から《シリア》。

なぜこのアルバムを、かけたのか?
それには理由がある。

この番組に出演するにあたって、いくつかの意味を込めたかったからだ。


1、
まず、いきなりゲストの高野 雲といっても、おそらく多くのリスナーは「誰だそれ?」となることだろう。
よって、ゲストである私の音楽の好みや、自分自身の音楽観における根っこの部分を表明しておきたかった。

高野 雲って誰だそりゃ?

リスナーの疑問と好奇心にこたえるべく、

まずは、寺島さんのお店「メグ」のライバル店とされる、四谷「いーぐる」でアルバイトをしていた人間であることを明らかにする。

今でも、その店の常連でもあり、過去に何度か連続講座をやったことがあることも明らかにする。

そして、お世話になっているお店(=いーぐる)のマスターが好んで著書で取り上げるアルバムであり、かつ、私自身も大好きなアルバムが『ジャズ・ジャイアント』だということをまずはアピールしておけば、予備知識のあるリスナーは、「なるほど、そういうスタンスの人がゲストにきたわけね、こりゃ面白い展開が期待できそうだ」と、今後の展開に期待を持っていただけるだろうと判断したためだ。


2、
なぜ、このアルバムの代表曲、《テンパス・フュージット》ではなく、2曲目の《シリア》なのか。

これは、《テンパス・フュージット》を良しとする私の師匠格である後藤さんに対する遠慮もあるのだが(笑)、異様なスピード感とスリリングさを味わえる《テンパス》に対して、リラックスムードな《シリア》は、演奏テンポもミディアム・バウンスであるゆえ、落ち着いて、ピアノの1音、1音を追いかけることができる。

ゆえに、後述するが、パウエルのピアノの音の立ち方、タッチの強さが明確に感じ取れる内容だから。

そして、俳優の小林のり一さんも大好きな演奏であると同時に、私自身もこの一見何の変哲もないミディアム・テンポの典型的なバップピアノが大好きだという本音の部分もある。


3、
寺島さんは、放送や著書では口酸っぱく、タテマエで1年に1回も聴かないようなアルバムをあげるのではなく、日常的に好きなジャズは何か?ということを問われている。

そういうことであれば、まさにこの『ジャズ・ジャイアント』は、日常的に聴いているアルバムの1枚だ(最近は『ジニアズ・オブ・バド・パウエル』を聴くことが多いのだが)。

元旦に聴いて心身清めることの多いアルバムであると同時に、日常的に聴く頻度の高いアルバムなので(特に締切が迫ってきたときなど)、まさに、寺島さんがリスナーにぶつける疑問「日常的には何聴いているの?」に応えるに相応しいアルバムと判断したため。

やっぱり自分の本当に好きで好きでたまらないアルバムを冒頭にかけることが、もっとも名刺代わりにふさわしいでしょう?という判断。


4、
ちょっと性格悪いが、寺島さんのイヤ~な顔を見てみたかった(笑)。

著書では、後期パウエルの『イン・パリ』や、『ゴールデン・サークル』を褒める一方で、《ウン・ポコ・ローコ》のことを「醜悪」と断じ、初期パウエルのピアノを「ピアニスティックな手淫」とコキ下ろす寺島さんは、後記パウエルは好きだが、前期パウエルが嫌いなことを私は十分過ぎるほど知っている。

では、どれぐらい嫌いなのかを、本人を目の前にして、ダイレクトな反応をみてみたかった。


5、
番組を聴いていると、寺島さんは、録音の良いジャズを良しとし、録音の悪い演奏は、どんなに演奏内容が良くとも、あまりよいリアクションをしない。

とくに、公開収録の際、ゲストが持ってきたシドニー・ベシェの《サマータイム》がかかった際も、苦虫をかみつぶしたような表情をしていたことは記憶に新しい。

しかし、パウエルの『ジャズ・ジャイアント』は、たしかに録音は悪いかもしれないが、演奏内容は超一流な上、ピアノの音がものすごく立っている。

どんなに録音が悪くとも、パウエルがプレイするピアノの音の強さや存在感は傑出していることは確か。

これは再生装置が云々の問題ではなく、多くのジャズを聴けば聴くほど、相対的にパウエルのタッチの強さというものは感じ取れるハズ。

でないと、私から言わせれば、
「あなた、本当に音楽聴いているんですか?」
なのだ。

パウエルのピアノが本質的に持つ音の強さをオーディオの音云々を超えて寺島さんは感じてとってくれるものか。
それとも、音の悪さで拒絶反応を起こしてしまうのか。

演奏内容を聴きとらず、表面的な音の良し悪しだけで拒絶反応を起こせば、それは、寺島さんには「音を聴く耳」はあっても、「ジャズを聴く耳」は持っていないという証明になる。

そのことが、PCM放送を聴いているリスナーの前で明らかになってしまうのだ。

これは、私としては、かなり露骨かつ残酷なリトマス試験紙だったつもりだった。


ところが、ところが、寺島さんはあっさり一言、「ベースとドラムが聴こえないなぁ」の一言を持って、ダメ烙印(笑)。

いやぁ、予想以上にアッサリとしたリアクションに、私は椅子からズッコけそうになっちゃいましたよ(笑)。

いや、正確にはダメと仰ったわけではないが、顔は明らかにイラだち、これは俺の好むジャズじゃないという表情丸出しだった。

そして、

現代のピアノトリオというのはですね、ピアノだけではなく、ベースとドラムが対等に絡み合っているのが醍醐味なんですよ

と語り始めた。

あのー、今かかっているのは、現代のピアノトリオじゃなくて、昔のピアノトリオなんですけど(笑)。

ピアノ+ベース+ドラムという、当時としては画期的で新しいピアノトリオを創設した本人(パウエル)による、初期の演奏なわけで。

だから、完全にこの当時のピアノトリオのコンセプトは、「主」のピアノに対して、「従」のベースとドラムという役割分担が明確に分かれていたわけで。

だから、これを録音した当時の録音技師も、パウエル本人も、ピアノとベースとドラムスの絡みが三者対等云々などということは考えて演奏・録音したわけではないのだ。

それは、まだ「メクラ」や「ドカタ」という言葉が放送禁止用語ではなかった時代の映画やドラマを見て、「差別用語を使っているから、私はこの映画は嫌いです」と言っているようなもので、明らかに、現代の価値観を昔に押してつけて判断していることになる。

「ピアノとベースが対等に」云々というのは、ビル・エヴァンスが現れて以降の話。

つまり、それ以前に録音された『ジャズ・ジャイアント』に、当時は存在しなかった価値観、尺度を照らしても仕方がないのだ。

さすがに、この指摘には岩浪さんもオカシイと思ったのか、パウエルはそういう聴き方をするピアニストじゃないんですよ、と助け舟。

しかし、このような歴史的背景を長年ジャズ喫茶のマスターをしている寺島さんが知らぬはずがない。
これは、おそらく寺島さん流の計算された、戦略的なコメントなのだと気がついたのは、少し経ってからのことだった。

つまり、寺島さんが言いたい本当のことは、パウエルのスタイルや、録音の音質やバランスのことではなく、己の嗜好・スタンスをリスナーに対して表明することにあったわけで、私のかけたパウエル云々は、
あくまで寺島さんのスタンス表明の叩き台でしかなかったのだ。

「私は、ベースもドラムもキチンとバランスよく録音されたピアノトリオが好きなのです」

という己の好みを明らかにすると同時に、

「寺島レコードでは、ピアノよりもベースを前に出した録音バランスでアルバム作りをしています」

という、オチに繋がるというわけ。

これは、後に寺島さんがかけた録音したてホヤホヤの《ベサメムーチョ》で明らかになる。

演奏そのものは可もなく不可もなくの《ベサメムーチョ》だったが、ピアノトリオの録音バランスが明らかに通常とは異なっている。

つまり、ベースが一番前に出ていて、ピアノが奥から聞こえてくるようなバランス。
ベースの音は重厚かつ生々しく、悪くはない。
まるでキングレコードの『低音王』を聴いているような感触だ。

しかし、ピアノがもうちょっと前に出てきてくれてもいいんじゃないか? と思っていると、

どうです? これが僕の理想とするピアノトリオの楽器バランスなんですよ。

そうほほ笑む寺島さんを見て、
ははぁ、なるほど、私がかけたパウエル叩きは、これを言いたいがための布石でもあったのだなぁと気がついた次第。

さすが、ダテにこの番組を10年以上続けているわけではない。
老獪っす、寺島さん(笑)。

ま、そんな寺島さんのキャラクターも、私、嫌いじゃないのだから困ったものだ。

さすがに、パウエルの《シリア》を一聴して、

「何も考えずにただ弾いているだけ」

「僕には音の強さだの、音が立っているだの、そういう表現がよく分からない」


と言われたときは、少しムッとしたけど、もう20年来の寺島さんの読者としては、それぐらいの発言は想定内。

なにより、本と放送でしか味わうことのできなかった「寺島節」をリアルタイムで、しかも、30センチと離れていない距離でライブで味わえたことに、ちょっと感激すらしてしまった私なのであった。



●この放送は、6/14と6/21の午後2時より2時間枠で放送されます。

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