マイルスじるし

今、細野さんの新刊 『文福茶釜』を読んでいるんだけど、その中の、興味深い一節。

「(中略)チャップリンなんか見ると、シルエットが大事だったでしょ。コメディアンは特にね。今はしゃべりの時代になっちゃったから、もう誰もシルエットを持ってないじゃない。最後に持っていたのって多分マイケル・ジャクソンだと思うんだけど、ぼくはそういうシルエットにも憧れたんだ」

シルエットといえば、ジャズで考えてみると、サッチモ、モンク、コルトレーン、ピーターソンなどなど、ジャズの巨人と呼ばれている人たちは、音とともに独自のシルエットも持っていた人が多かった気がする。

しかし、そのシルエットがキマり、アイコンの機能を果たしたのは、なんといっても、マイルス・デイヴィスだろう。

『いつか王子様が」のジャケットの右上の赤いシルエット。
このアイコンは、おそらく多くの人が見覚えがあるい違いない。



また、『スケッチズ・オブ・スペイン』の左の黒いシルエットも印象深い。



これらのアイコンは、コロムビア時代のジャケットから使われ始めているんだけれども、もしかしたら、コロムビアの宣伝部は、マイルスのアイコン化に、かなりの予算と時間を費やしたのかもしれないね。

だって、使われ方が戦略的だもの。

少し前のソニーのアイボみたい。

アイボの場合は、ソニーの企業ロゴとして広告に使用されていたが、マイルスのこのシルエットは、マイルス印のコーポレート・アイデンティティ、いや、ミュージシャンズ・アイデンティティのような機能を果たすコミュニケーションアイコンとして、コロムビアから発売されるマイルスのアルバムジャケットに実に効果的に配されていた。

まるでブランドロゴのように。

このマークがついているレコードは品質保証、
……じゃなくて、内容のクオリティも保障しますよ、と言わんばかりに。

もっとも、内容はたしかに抜群のクオリティだけども。

私がぱっと思いつくジャケット上にレイアウトされたアイコンは、上記2枚だけれども、それ以外にも、マイルスのCDのビニールパックに貼られるプレゼントの応募シールなどにも使われていた。

右向き、左向きとひっくり返して使えるところも便利だよね(笑)。

こうしたところからも、マイルスの存在は突出していた、という見方もできるが、それ以上に、マイルスの“売り出され方”は他のジャズと比べても突出していた、ということが読み取れる。

いちジャズマンとしての技量、存在感はもちろんのことだが、それに付随するタレント性、カリスマ性がより一層増してきたのもこの時期。

このカリスマ性は、マイルス独力によるセルフ・ブランディングだけでは成し得なかったことだと思う。

音楽性の高さと、高度な売り出され方が幸福な融合を遂げていたこの時期のマイルス。

やっぱり、『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』、『マイルストーンズ』、『カインド・オブ・ブルー』も含め、初期コロンビアのマイルスの諸作は、分かりやすく・かつ・奥行きのあるものばかりだ。

個人的には、後年のエレクトリック・マイルスや、それ以前のプレスティッジ、ブルーノートの時期のマイルスのほうを日常的に聴いているけれども、エンターテインメント性と芸術性が絶妙なバランスで溶け合っていた、
“マイルスじるし”のアルバムは、誰もが認めざるを得ない、すぐれた“プロダクツ”だと思うのだ。

やっぱり私としても、自分の好みはさておいて、マイルス初心者にお勧めしてハズレの無さそうなアルバムは、やっぱりこのヘンだと思ってますから。

このような、マイルスの音楽以外にも、彼のファッションや、時代への切り込み方、受けいられ方などなど、鋭く興味深い考察は、



にも、たっぷり書かれているので、興味のある方は一読をオススメしたい。

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