今週のこれを聴くべし!~ビル・エヴァンスの『ポートレイト・イン・ジャズ』 ブルー・イン・グリーン

今週の、この1曲は、
ビル・エヴァンス、『ポートレイト・イン・ジャズ』の《ブルー・イン・グリーン》。

このアルバムは、『ワルツ・フォー・デビー』とともに、エヴァンスの代表作だが、必ず俎上にのぼる曲は、《枯葉》だ。

あと、私の場合は、格調高く生まれ変わった《カム・レイン・カム・シャイン》や、躍動的なノリの《ペリズ・スコープ》がお気に入りだが、考えてみれば、ぜんぶ、レコードでいうとA面の曲ばかりなんだよね。

どちらかというと、B面よりもA面のほうが躍動感のある演奏が多く、B面はスタティックな印象が強い(B面の《恋とはなんでしょう?》は別だが)。

よって、私の場合だけなのかもしれないが、どうも『ポートレイト・イン・ジャズ』は、長らくアルバムの前半を偏愛する傾向が強かった。

しかし、スタティックなB面にも注目すべき曲はもちろんある。

その筆頭が、《ブルー・イン・グリーン》だろう。

『カインド・オブ・ブルー』の収録曲として有名な1曲だ。

『カインド・オブ・ブルー』においては、作曲者クレジットはマイルス・デイヴィスになっているが、

実質的には、エヴァンスの作曲といっても過言ではない。

ある日、エヴァンスがマイルスに呼び出されて、2人でピアノを弾きながら、新曲のアイデアを練っているうちに完成した曲が《ブルー・イン・グリーン》だが、このハーモニー感覚は、エヴァンスのセンスがなければ成し得なかったというのが大筋の見方。

サイドマンの曲を自分のクレジットとして出すことを当然と思っていたマイルスのこと、エヴァンスの曲も自分名義にすることもやりかねないだろう、というのも大筋の見方。

それはともかく、この曲はひたすら美しい光彩を放つ曲ではある。

とくに、マイルスのミュートを取り付けた鋭く澄んだ音色には、抜群の相性を見せる。

ゆったりとしたテンポのバラード、まさに管楽器のロングトーンが生きる旋律だ。

しかし、ペダルを踏めば、一応、長い音は出せるが、管楽器ほどロングトーンは出せず、

鍵盤を押した瞬間から、音はどんどん減衰してゆくしかない宿命のピアノという楽器で、この、一音一音の息の長い曲をどう処理するのか、という疑問も、作曲にかかわったエヴァンスは見事な解答を示しているのが、『ポートレイト・イン・ジャズ』の演奏なのだ。

蒼い色彩をまばゆく、儚く放つ『カインド・オブ・ブルー』のバージョンに比べると、こちらのピアノトリオの演奏は、丁寧に磨き上げられた木製家具のようなシックな佇まい。

まばゆい光沢を放つ『カインド・オブ・ブルー』のバージョンとは質感のことなる、深い艶消しの世界。

一聴、エヴァンスのトリオのほうが、編成の差もあり、音色のバリエーション少なく、一気にリスナーの耳を惹きつける「華」の要素は少ないかもしれないが、この落ち着いた秋を感じさせるピアノと、ピアノにやさしく彩りを加える、ポール・モチアンのシンバルの音色は特筆ものだ。

両アルバムの演奏を聴き比べるのも、またジャズの楽しみの一つといえるだろう。

自宅の棚に『ポートレイト・イン・ジャズ』を眠らせている人は、ぜひ、《枯葉》だけではなく、《ブルー・イン・グリーン》の世界に埋没してみてください。

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