ボビー・マクファーリンは、まずは映像から!



七色の声を持つ男、ボビー・マクファーリン。

ボビー・マクファーリンをご存じのない人は、まずは音のみのCDよりも、先に映像に触れていただいたほうが、彼の面白さ、素晴らしさ、スゴさがいっぺんに分かるだろう。

その映像とは、『スポンティニアス&インヴェンションズ』。

たった一人のパフォーマンスで、ステージを熱狂の渦に巻き込んだライブだ。

ソプラノ・サックスを吹くウェイン・ショーターとの掛け合いを除けば、ステージは彼一人の独壇場。

椅子、
カメラマンが切るシャッターの音、
水がはいった瓶、
指輪、
お客さんのご婦人の身体(?)

などなど、事前に計算はされ、仕込みも周到なのだろうが、とにもかくにも、ありとあらゆるものを音楽の構成要素として取り込む彼の姿、そして、きちんと楽しめる内容に仕上がっていることにはほんと、脱帽だ。

たった一人で、身体全体から様々な声や音を発し、目に映るすべてのものを楽器として使ってしまう彼の芸技は大したもの。

いま、「芸技」と書いたが、一見大道芸にも通ずるエンターテイメント性を持ちながらも、そのじつ彼の表現は奥深いものがある。

ベースパートの低音から、胸を叩いて出すパーカッシヴな音、ファルセットによる高音域、マイクを首に押し当て、まるで車のエンジンのような音、リズミカルな呼吸の音までをも、“楽器”の音として発し、じつに多くの音色と音域カバーする声の持ち主ゆえ、最初に音だけのCDを聴いても、どこまでが彼の声なのか判別するのは難しい。

というより、実感が湧かないのでは?

事実、彼がデビューしたての頃、吉祥寺の「メグ」で友人がリクエストした『チュニジアの夜』を聞いたときは、バックのリズムトラックなどは、声をサンプリングし、ループさせたか、あるいは、ジャコ・パストリアスのソロパフォーマンスのように、入力した音(声)を、デジタルディレイを用いてループさせた、機械の力を借りたギミックミュージックに聞こえてしまい、あまりピンとこなかった。

しかし、その直後、一人で渋谷の「スイング」で、彼のライブ映像をリクエストして観た瞬間から、「メグ」で感じた、彼の音に対する違和感が一瞬にして払拭された。

ギミックミュージックどころではない。
なんとプリミティブで、ハートウォームな音の創造者なことか。

一瞬にして虜になってしまった私は、LDを買い求め、毎日繰り返し、彼のパフォーマンスを食い入るように鑑賞し、この熱が弟に飛び火し、あげく、弟のほうが、私以上のマクファーリン・フリークになってしまった。

今でも来日するたびに彼のライブにかけつけているようだ。

アイデアも豊富で、さらに跳躍激しく譜割りの複雑なパーカーナンバーもあっさりと声ひとつでこなしてしまうほどの技巧を持った彼だが、声そのもの、とくに、ふくよかなファルセットの声色は特筆に値する。

私はプリンスも好きで、とくにファルセットばかりで固められた初期のアルバム2枚も大好きなのだが、そのプリンスの声よりも、厚みと温かみがあり、マクファーリンの声を聴いた後では、大好きなはずのプリンスの声ですら、細くて多少神経質なものに感じてしまうほど。

そう、映画『ラウンド・ミッドナイト』の冒頭に流れる同名曲の主旋律も彼なのだ。

ミュート・トランペットよりも柔らかく、自然にベンドされた音程感も、よりナチュラルな感じ、不思議とノスタルジックな音色も、マクファーリンによるもの。

お父さんがオペラ歌手ということの影響もあるのかもしれないが、とにかく声のコントロール技術は見事!の一言だ。

とにもかくにも、この映像は、ジャズのジャの字も知らない人も、マクファーリンのマの字も知らない人も、必ずや夢中にさせるだけのエンターテインメント性と、たしかな音楽性に貫かれているので、是非是非、ご鑑賞をお勧めしたい。

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック