市原ひかりの、ふわり感

市原ひかりの『スターダスト』は、完全に「曲買い」だった。



『シェルブールの雨傘』は、私が好きな映画の一つだが、そのミッシェル・ルグラン作曲の《シェルブールの雨傘》が入ってるし、ソニー・クラークの名曲《ブルー・マイナー》が入ってるし、名曲《アイ・リメンバー・クリフォード》や《スターダスト》が入っているし、んでもって、ベースがジョージ・ムラーツだしと、けっこう個人的にツボな要素が満載。

私、市原ひかりの“ふわり”としたラッパ(トランペット、フュリューゲルホーン)、悪くないと思っているほうです。

もうちょっとアクというか主張の強さがあってもいいかな、と思うこともあるけれど、決してトランペットは天才だけの楽器だ!とは思わないほうなので、それぞれの持ち味が、表現したいことと一致していればイイんじゃないかと思っているほう。

たしかに、往年の黒人ハードバッパーたちのトランペットに比べれば、彼女のペットは、腰もアタックの強さも足りないのかもしれないけれども、だからといって、それをもって全否定というのは、酷ってもんでしょう。

大阪の押し寿司(箱寿司)は、ぎゅうっとつまった凝縮感が旨いわけだけど、日本橋の寿司屋のにぎりは、シャリの中に適度にいきわたった空気の「ふうわり感」が粋ってもんだ。

そして、市原ひかりのトランペットは、間違っても関西方面の圧縮寿司ではない。

ポイントは「ふうわり感」。
この「ふうわり感」が良い方向に作用している演奏も結構ある。

たとえば、バックのサウンドが「フュージョンっぽい」ため、個人的にはあまり好みではない『一番の幸せ』というアルバムがある。



しかし、これに収録されている《憂鬱と恵みの雨》 の冒頭のソロの部分のプレイが私は好きだ。

薄くディレイをかけて繰り広げられる浮遊感あふれる数十秒。
空気の隙間をするりするりと駈け抜けてゆく軽やかさは特筆もの。

ちょっとマニアックな話になるが、私は新潟県新潟市の街が好きで、かれこれ20回以上仕事や遊びで訪れているのだが(ジャズ喫茶『スワン』もあるしね)、なぜ新潟が好きなのかというと、街並みと、青すぎない青空がすごくマッチしていて好きなのね。

だから、福岡芳穂監督の『愛してよ』という映画も好きなんだな。
西田尚美が主演の作品ね。



この映画はオール新潟ロケ。きっと、監督は、新潟の空の色にこだわったんじゃないかという画面作りが随所に見られる。

空と空間を強調した、ちょっとシュールで幻想的n白昼夢のようなシーンが何度か挿入されるのだが、まさに市原ひかりの《憂鬱と恵みの雨》 は、映画『愛してよ』の劇中のいくつかのシチュエーションにピッタリだと思う。

この部分だけ抽出して、もっとロングバージョンで吹いてくれると嬉しいのにな、といつも思いながら聴いているわけで、ということは、彼女の「ふうわり感」にもそれなりの強い引力があるわけだ。

『スターダスト』でいえば、私は《スカイラーク》での一人語り的な長めのソロが結構好きで、落ち着いた気分で彼女の語りに耳を傾けているよう。

リー・モーガンやマイルスのように一発で人の耳を鷲掴みにする腕力はないかもしれないけれども、ブラウニーやハバード、そしてウイントンのように誰もが息を呑む鮮やかなテクニックには達してはいないけれども、ゆっくりとつきあえば、じわじわと良さが染みてくるはず。

無理して高らかに鳴らそうとはせずに、肩の力を抜いて、スムースに《スカイラーク》のアドリブのように吹いたときのようなテイストが私は好きだ。

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