放送第52回『エリック・ドルフィー特集~バスクラリネット編』

今回の「高野 雲の快楽ジャズ通信~What Is This Thing Called Jazz?」の特集は「エリック・ドルフィー(バスクラリネット編)」です。


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本日午後8時よりコミュニティFM、
明日午後10時よりミュージックバードのジャズチャンネルにて、
来週木曜日の午後10時からはミュージックバードのクロスカルチャー・チャンネルにてお送りします。

今回は番組でかけたアルバムと曲の紹介をしたいと思います。

まずは、オープニングでディレクター嬢によるドルフィーのプロフィール紹介のバックで流れるのは、ドルフィーのバスクラリネットによる独奏、《ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド》です。

この曲はドルフィー、好んでライブで演奏していたようですが、今回は『ストックホルム・セッションズ』のバージョンを選びました。



ほかにも『イリノイ・コンサーツ』『ベルリン・コンサーツ』『ヒア・アンド・ゼア』『エリック・ドルフィー・イン・ヨーロッパ vol.1』などのアルバムにも記録されていますが、アプローチの内容はほとんど変わっていません。

ビリー・ホリデイ作のしみじみとした歌が、アルペジオを多用したドルフィー独自の解釈により、原曲とはまったく違う趣きの内容に様変わりしています。

スケール練習のようなアルペジオの合間に出現する原曲のメロディの片鱗と、その分厚く艶めかしい音感が素晴らしい。

さて、最初の一発は、攻撃力とインパクトのあるバスクラを味わっていただきたく、『ラストデイト』から《エピストロフィ》を。



以前放送した「セロニアス・モンク特集」以来、モンク好きになってしまったディレクター嬢は、一発でこの演奏の虜になってしまったようです。

ミシャ・メンゲルベルクのピアノに耳が吸いついてしまったようで、ハン・ベニンクのドラムソロのコーナーになって、はじめてドラムの音に気がついたようで「あ、はじめてドラムの音が聴こえた!それぐらいピアノに夢中だったんだ!」と驚いていました(笑)。

《エピストロフィ―》はモンクとケニー・クラークの共作曲。
この幾何学的で、さらにボーっとしていると自分の立ち位置を忘れてしまいそうなイジワルな構成の曲は、もとはといえば、夜な夜なジャムセッションを参加するため「ミントンズ・ハウス」に群がる若手ミュージシャンたちを困らすために作った曲でもあり(このモンクとクラークはミントンズのハウスリズムセクションだった)、演奏しているときは常に気の抜けない曲ではあるのです。

幾何学的な音列ゆえ、逆に演奏者の身体性が露わになる曲ともいえます。
だからこそ、ドルフィーのバスクラリネットの艶めかしさ、メンゲルベルクの硬質でモンクの和声をさらにエグくした「曇り空なピアノ」がより一層浮き彫りになっていると感じます。

私、ほんと、この演奏は大好きで、ドルフィーのバスクラを口でコピーして歌ったりもしていました(ただし、周囲からは狂人扱いされかねないので歌う場所には注意が必要!)

さて、お次はメロディアスで聴きやすいバスクラを!ということで、ドルフィーの初リーダー作『アウトワードバウンド』から《オン・グリーン・ドルフィン・ストリート》。



《エピストロフィ―》が苦手な方にも、こちらの演奏だったら親しみやすいのではないでしょうか?

ずっと前に、高田馬場のジャズ喫茶『イントロ』のカウンターで、当時の私と同い年くらいの大学生の女の子が、ドルフィーの《オン・グリーン・ドルフィン・ストリート》のバスクラが大好きだと言っていた風景が今でもなぜか記憶に残っていて、以来、ドルフィーに興味を持った女性には、このアルバムの《グリーン・ドルフィン》を勧めることにしています。

ただ、ディレクター嬢はあんまりこの曲には反応していませんでしたが……。
《エピストロフィ―》のようなエグ目な演奏を好む体質になってしまうと、『アウトワードバウンド』は多少ヌルく感じるのかもしれませんね。

バスクラは主役の楽器としても十分に威力を発揮することが、前出2曲でおわかりいただけたと思うので、お次の2曲は、アンサンブルの中でも効果的に用いると、非常に色彩感と奥行きが豊かになるんだよという趣旨のもと、選曲してみました。

まずは、オリヴァー・ネルソンの『ストレート・アヘッド』より《イメージズ》。



クリーミーなネルソンのアルトサックスと、ブリブリしたドルフィーの音色の相性の良さ。
この2人が生み出す、怪しい「ひゅ~ドロドロドロ~」なお化け屋敷な感じ(笑)がグー!

次もアンサンブルに溶け込むバスクラリネットの美しさを味わって欲しいナンバー。
ピアニスト、アンドリュー・ヒルの『ポイント・オブ・ディパーチャー』より、《デディケーション》。



うーん、なんて美しく、悲しい曲なんだ。

昔、ジャズ喫茶『いーぐる』でアルバイトをしていたときに、レコード係に怖い先輩がいて、いや、根はすごく優しい人なんですが(笑)、その方に、ジャズについて様々なことを学びましたし、「ジャズ耳」も鍛えられました。

それにまつわる面白い話はたくさんあるんですが、それは別の機会に譲るとして、とにもかくにも、その怖~いけども優しい先輩が大好きな曲がコレだったんですよ。

《デディケーション》の良さが分からねーヤツはジャズ聴く資格ねーよ!

とまで言い放っていたので、「こりゃヤバい! どんな曲だったっけ?」と、その日は慌てて帰宅し、ホコリをかぶっていた『ポイント・オブ・ディパーチャー』を引っ張りだして気合いを入れて《デディケーション》を聴いてみました。

ところが、気合いを入れる必要などまったくなかったんですね。
気合いを入れずとも、無防備な状態でも染みてくるほど、本当に本当に素晴らしい曲&演奏なのです。

以来、この曲は大好きなナンバーのひとつになりました。

ラストは、有名な演奏で締めくくります。
ドルフィーのバスクラと、ミンガスのベースの「会話」ですね。

『ミンガス・プレゼンツ・ミンガス』から《ホワット・ラヴ》。



まるで楽器同士が会話をしているかのよう。

聴きようによっては、空き地や神社などでサカリのついた猫たちがミャーミャーしているようでもありますが(笑)、これほど肉声に近い演奏も珍しく、演出臭さも感じはしますが、なによりも「面白い!」内容であることはたしか。

ドルフィーの限りなく肉声に近くリアルで生々しいバスクラの音色を堪能できるのではないかと思っています。

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