きわめて上質なピアノソロ


いっきさんがブログ、
“「いっき」のジャズあれこれ日記”で、
ハンク・ジョーンズの『ティプ・トー・タップダンス』を紹介しています。

こちらの記事です

Tiptoe Tapdance

Tiptoe Tapdance

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Original Jazz Classics
  • 発売日: 1996/02/12
  • メディア: CD

私、このアルバムは大好きで、
学生時代から愛聴していました。

西田敏行の

♪もしも~ピアノが~弾け~た~な~ら~

じゃないけれども、
もし、私がジャズピアニストだったら、
こういうピアノを弾きたい(笑)。

柳沢きみおのコミックに、
『真夜中のジャズマン』という作品があります。

男!女!!愛と情念の旋律!真夜中のジャズマン (マンサンQコミックス)

男!女!!愛と情念の旋律!真夜中のジャズマン (マンサンQコミックス)

  • 作者: 柳沢 きみお
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2006/01/07
  • メディア: コミック

脱サラし、酒場のピアノ弾きになった主人公は、
先輩ピアニストから、
「客の邪魔をしない、主張しすぎないピアノを弾け」
と、酒場のピアニストとしての大事な心得を伝授されます。

このマンガに登場する「パブ・カバン」という店で流れるピアノは、ハンク・ジョーンズのピアノソロのアルバムのような音だったのかもしれません。

もちろん、ハンク・ジョーンズのピアノは、
じっくり聴いても聴きごたえのあるピアノで、
カクテルピアノと呼ぶには勿体ないほどの上質な演奏です。

にもかかわらず、
このピアノの上に、
お客さん同士の会話や、
グラスがカチンと触れる音、
キャッシャーのチン!という音がかぶさったとしても、
まったく違和感がないことでしょう。

いや、それどころか、
当り前のように、
店の空気の一部として、
あたかも
“最初からなんの問題もなくそこにあった音”
として認識してしまうことでしょう。

このいっきさんの記事に、
「年を重ねないと出せない音」というようなコメントを投稿されていますが、まったくそのとおりだと思います。

もっとも、
年を重ねたからといって誰もがこのようなピアノを弾けるわけではないのですが、たしかに年を重ねないとこのような味わいは出しにくいのではないかと思います。

その秘密は、奏法とかテクニックの問題ではなく、
我々が無意識に体感している音の粒子のようなものだと思います。

つまり、年をとればとるほど、
発散される音からトゲのようなものが
とれてゆくのではないかと。

もちろん、マッコイ・タイナーのように、
70を超えても、
ガンガンソロピアノを力強く叩くように弾くピアニストもいますので、年をとったらからといって自動的に音のトゲトゲしさやカクカクした要素が取れるというものではないと思います。

しかし、ウイスキーのようなお酒は、樽に寝かせた年数が長ければ長いほど、熟成され、トゲトゲしさが消え失せ、マイルドなコクを醸し出すのと同じように、ピアノの音にもその傾向が強くなってくるのではないかと思うのです。

最近、ハンクジョーンズのこの作品を聴き返して思いだすのは、沖縄のピアニスト、屋良文雄さんの音です。

以前、沖縄のジャズカフェ「スコット・ラファロ」のオーナーでもあるtommyさんに、那覇にある「寓話」という屋良さん自身が経営するお店に連れていってもらったことがあるのですが、そこのステージでトリオで演奏する屋良さんのピアノは、とても優しく、柔らかでエレガントでした。

▼屋良さんの演奏が収録されています
ウチナーJAZZ!

ウチナーJAZZ!

  • アーティスト: 沖縄ジャズ協会,香村英史クインテット,屋良文雄トリオ
  • 出版社/メーカー: リスペクトレコード
  • 発売日: 2008/11/05
  • メディア: CD

もちろん、屋良さんとハンク・ジョーンズとではスタイルも奏法もまったく違います。
屋良さんのピアノは、那覇の国際通り近くの店の立地ということもあり、本土から来たお客さんが喜ぶような有名曲も織り交ぜながら、店としての営業用の演奏も積極的に演奏しています。
我々が観に行ったときは、チック・コリアの《スペイン》なども情熱的に演奏もしていました。

選曲もそうですが、スタイルもジーン・ハリスやレイ・ブライアントほど、ゴスペルライクなコテコテさはありませんが、結構、演奏の中に意図的に誰もが喜ぶような、とっつきやすい“砂糖”の成分も入れることを厭わないピアノなんですね。
もちろん、その砂糖の成分は上質なものだけれども。

だから、ハンク・ジョーンズほどアーティスティックではなく、スタイルに関しては万人受けするようなコマーシャルな要素もある。

まったくタイプの違う屋良さんとハンク・ジョーンズのピアノなのですが、それでも身体で感じる音のトゲトゲしさの無い柔らかいクッションのようなピアノの音はなんとなく共通するものを感じるのです。

もっとも多才な表現力を持つハンク・ジョーンズのこと、『ティップトゥ・タップダンス』では、マイルドでコクのある味わいを出していますが、数年前にブルーノートでの来日公演を見に行ったときは、もっと強靭なタッチでガンガン弾いていましたが……。

あくまで、私が屋良さんに感じたハンク・ジョーンズのピアノは『ティップトゥ・タップダンス』の上質で柔らかなピアノの音からです。

しかし、甘くもなく、
BGM的にもなり過ぎず、
淡々としていつつも、きちんと聴かせどころもわきまえた、『ティップトゥ・タップダンス』で弾かれるハンク・ジョーンズのピアノ、これはほんと匠の技です。

誰もが出そうとして出せる味わいではありません。

主張し過ぎず、
カクテルピアノにも堕すことなく、
非常にきわどいバランスの中で成り立っている、
優れたピアノソロなのです。

ある意味、表現者の品性までをも浮き彫りにしてしまうのがピアノソロ

結構、怖~いフォーマットでもあるのです。

そういえば、このアルバム評は、数年前に私、「カフェ・モンマルトル」にレビュー書いていました。

ここをクリックするとレビューに飛びます

今、読み返してみたけれども、
2003年に書いていたんだね。

もう7年も前か。

でも、書いてあることは、
だいたい、ここに書いた内容と同じでした(笑)。

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